この記事を目にする方は、これから自衛隊を退職することになる
① 任期制自衛官
② 定年制自衛官
と
③ 既に再就職を終え新たに就職を希望される元自衛官
ですね。
まずは①②の方々を対象にお話します。
再就職に当たっては、まず、自衛隊援護に頼るのが一番です。
それでも「仕事は自分で探す」とか就職援護がうまくいかず「リターンマッチ」したいという方には、
「職業訓練制度の活用」がお勧めです。
これを知っているか否かでその後の生き方が大きく変わってしまう可能性もあります。
なので、大事な所を説明します。
第1 職業訓練についての基礎知識
1 職業訓練とは
さて「職業訓練」とは何でしょうか。
難しいことはさておき、「職業能力開発促進法」などの決まりを要約すると、「職業訓練」とは、
【労働者や求職者に対して職業に必要な技能を習得させたり向上させること】を目的として
〇 事業主が雇用する労働者に対して実施している私設のもの
〇 国や都道府県が労働者や求職者に対して実施している公的なもの
と理解できます。
2 私設の職業訓練とは
皆さんにとって「私設の職業訓練」とは、
〇「防衛省が現職自衛官に対して実施している職業訓練」
つまり、「再就職支援施策として行っている職業訓練」がこれにあたります。
「防衛白書」<第4部第2章第1節-6>によれば、自動車運転、施設機械等運転、電気通信技術など、約150課目の職業訓練の受講が可能なのだそうです。
皆さんの中には既にこれを受講されている方もおられるかも知れません。そうでないなら、チャンスがあればこれからでも是非職業訓練の受講を希望してみては如何でしょうか。
3 公的な職業訓練とは
次に、「公的な職業訓練」とは
〇 国や都道府県が労働者や求職者に対して実施している「職業訓練」であり、「公的職業訓練」と言い、ハロートレーニングとも称されます。
ハロートレーニングは、「公共職業訓練」及び「求職者支援訓練」の2つから成ります。
「公共職業訓練」は、雇用保険を受給しながら受ける訓練です。「求職者支援訓練」は、雇用保険を受けることができない者が受ける訓練です。
自衛官は退職後に雇用保険を受けることができませんので、もし職業訓練を望むのであれば、「求職者支援訓練」を受けることになります。
第2 求職者支援訓練とは
1 求職者支援訓練とは
「求職者支援訓練」とは、「求職者支援制度」に基づいて実施される職業訓練です。
そもそも公的職業訓練は、もともと雇用保険制度を原資として公共職業訓練から始まったものですが、様々な要因による厳しい雇用情勢を受け平成23年に「求職者支援制度」が制度化され、求職者支援訓練が開始されました。そこで、まずこの制度について少し詳しく説明します。
2 求職者支援制度とは
求職者支援制度の概要は、以下のようなものです。(※1)
〇 雇用保険を受給できない求職者が、月10万円の生活支援の給付金を受給しながら、無料の職業訓練を受講し、再就職や転職を目指す制度
〇 雇用保険と生活保護の間をつなぐ第2のセーフティネットとして、離職して収入がない者を主な対象としているが、 収入が一定額以下の場合は、在職中に給付金を受給しながら、訓練を受講できる。
〇 支給要件を満たさず給付金を受給できない場合であっても、無料の職業訓練を受講できる。
3 制度を活用するための要件
この制度の活用にあたっては、以下の「訓練受講の要件」が必要となります。
〇 ハローワークに求職の申込みをしていること
〇 雇用保険被保険者や雇用保険受給資格者でないこと
〇 労働の意思と能力があること
〇 職業訓練などの支援を行う必要があるとハローワークが認めたこと
4 給付金の支給要件
この制度により職業訓練給付金を受給するためには、上記「訓練受講の要件」に加え、以下の「要件」に適合することが必要となります。
〇 本人収入が月8万円以下
〇 世帯全体の収入が月30万円以下
〇 世帯全体の金融資産が300万円以下
〇 現在住んでいるところ以外に土地・建物を所有していない。
〇 全ての訓練実施日に出席している。(やむを得ない理由がある場合でも、8割以上出席する)
〇 世帯の中で同時にこの給付金を受給して訓練を受けている者がいない。
〇 過去3年以内に、偽りその他不正の行為により、特定の給付金の支給を受けたことがない。
〇 過去6年以内に、職業訓練受講給付金の支給を受けていない。
5 訓練の対象者
この訓練の対象者は、上記の給付金支給要件に適合して「給付金を受けて訓練を受講する者」と、要件に適合しないため「給付金を受けずに訓練を受講する者」とがあります。
また、この訓練は、下表にあるように一定の条件の下に「離職者」のみならず「在職者」も訓練を受けることができます。
給付金を受けて訓練を受講する者 | |
---|---|
離職者 | 雇用保険の適用がなかった離職者 フリーランス・自営業を廃業した者 雇用保険の受給が終了した者 |
在職者 | 一定額以下の収入のパートタイムで働きながら、正社員への転職を目指す者 |
給付金を受けずに訓練を受講する者 | |
離職者 | 親や配偶者と同居していて一定の世帯収入がある者など(親と同居している学卒未就職の者など) |
在職者 | 働いていて一定の収入のある方など(フリーランスで働きながら、正社員への転職を目指す者など) |
6 職業訓練受講給付金の支給額
給付金の支給要件に合致した場合、以下の給付金が支給されます。
訓練受講手当 | 月10万円 ※訓練を受講している期間について、要件を満たせば1か月ごとに支給します |
通所手当 | 訓練施設へ通所する場合の定期乗車券などの額 (月上限42,500 円) |
寄宿手当 | 月10,700円 ※ 同居の配偶者、子および父母と別居して寄宿する場合などに支給 |
7 求職者支援制度の対象となる職業訓練
この制度における求職者支援訓練は、各都道府県が民間教育訓練機関に委託して行われます。また、公共職業訓練の受講も可能です。
求職者支援訓練の種類は、基礎コース・実践コースとがあり訓練内容、訓練期間、訓練分野などさまざまですが、特に実践コースでは「職務遂行のための実践的な技能などを付与する訓練」であり、IT、営業・販売、医療事務、介護福祉、デザインその他など幅広くあります。
東京都に例をとると、電気設備・金属加工・造園・建築・CAD設計などの訓練コースや、民間委託の職業訓練で介護、経理事務、IT、WEBデザインなどの訓練があります。1年から2年のコースである「長期人材育成訓練」では介護士、保育士、ゲームクリエイター学科やWeb動画クリエイター科のIT分野だけでなく、バイオテクノロジー科や環境テクノロジー科の化学分野など幅広い分野の訓練も充実しています。
令和7年5月現在の「求職者支援訓練」の募集定員は約550名です。また、職業訓練受講給付金を受けつつ公共職業訓練を受講することも可能であり、令和5年度の公共職業訓練を含む離職者訓練受講者数は1万人を超えており、多くの人が利用しています。
第3 求職者支援訓練に至る経路は
皆さんが自衛隊を退職して職業訓練を目指すのであれば、まずはハローワークに行くことから始まります。
その前にいくつかのポイントについてお話します。
1 退職前にしておくこと
退職後に、どのような経緯を経て再就職するにしても、まず自分が何をやりたいかを確立することが極めて重要です。
これが固まらないと自分の進むべき方向(仕事にしても、職業訓練にしても)が定まりません。
自分が何をやりたいかについて、現職でいる間に時間をかけて見定めてください。
その気があれば見定める機会は沢山あります。職業能力開発集合訓練、業務管理教育、通信教育、技能訓練、再就職支援施策での職業訓練など。
もう退職までに間もない人でも援護担当者のアドバイスを聞くことはできます。退職を迎えるまでに「何をしたいのか」を明確に定めておくことをお勧めします。
2 どのような訓練があるのか
将来自分のやりたいことが確立し、新たな知識・技術を身に付け、再就職に役立てられる能力を習得するためにはどのような職業訓練があるのか。具体的に見てみましょう。
今年度の訓練について 「令和7年度東京労働局求職者支援訓練開講スケジュール」(※2)にあるとおり毎月多くの訓練が設定されています。また、訓練内容(※3)は、表にあるとおり30以上の訓練が設定されており毎月多くの入校生を募集しています。
これらは、民間の教育機関に委託されている求職者向けの職業訓練であり、皆さんが希望すれば受講が可能となる訓練です。
3 求職者支援訓練受講への流れ
(1)ここからは訓練を受講するまでの流れについて説明します。
公的職業訓練を受講するためには、基本的にすべてハローワークを通じて行うことになります。
(2)受講するためには、ハローワークに求職申し込みをした後、職業訓練を実施する施設等が行う面接等の選考に合格し、ハローワークにおいて受講あっせんを受ける必要があります。
なお、受講あっせんは、ハローワークでの職業相談を通じて❶訓練を受講することが適職に就くために必要であると認められ、かつ、❷訓練を受けるために必要な能力等を有するとハローワークが判断した者に対して行います。
「ハロートレーニングの流れ」(※4)
(3)少し具体的に説明しましょう。
【受講に至る流れ】(項目の赤書きはハローワーク、黒書きは訓練施設)
①《求職申込・職業相談》
①の1 ハローワークに行き相談を受ける
〇 自分の居住地を管轄するハローワークに行き相談します。就職を希望している職種に役立つ職業訓練はどういったものなのかを教えてもらいましょう。
〇 ハローワーク内の行き先は、「職業訓練窓口」です。
〇 東京都の例で毎月訓練が設定され募集があるように、地域によって、また、相談のタイミングによって受講できる訓練が変わってくるので、自分に合う訓練をしっかり確認します。
〇 ハローワークには、現職時(つまり自衛隊を退職する前)に行っても良いです。希望する訓練が開始される時点で無職の状態であれば、その訓練を受けることができます。
①の2 訓練施設(訓練実施校)とコースを選択する
ハローワークで受ける説明やパンフレット(そのコースのパンフレットを貰えます。)などを確認しながら、自分が実際にどのコースを受けたいのか絞っていきます。迷ったときはハローワークの担当者に相談してください。
②《受講申込》
②の1 訓練施設が実施する施設見学会に参加する
〇 ハローワークで絞った訓練施設に直接電話して、「施設見学会」に予約を入れ、参加します。施設見学会の実施日はパンフレットに記述されていますので、日時が重ならなければ、複数の訓練施設の見学会に参加することが可能です。
〇 見学会への参加は、訓練施設の担当者にやる気をアピールできたり、また雰囲気などを知るチャンスになります。
②の2 申し込みの事前相談する
〇 居住地を管轄するハローワークで「受講申込書」、「受講申込・事前審査書」、「求職者支援訓練応募相談票」を受け取ります。
〇 「職業訓練受講給付金(10万円/月)」を希望する方は、その要件や手続きについて説明を求めてください。
〇 受講申込手続きには複数回の相談が必要だと言われています。また募集締切直前には窓口が混雑するので、余裕をもって相談に臨んでください。
②の3 受講を申込む
〇 求職者支援訓練の申込みには、事前相談で受け取った書類に必要事項を記入し、併せて証明写真(縦4㎝×横3cm 直近3ヶ月間で撮影されたもの)を提出します。この際、郵送や代理人によることは不可であり、本人による提出が必要です。
〇 必要書類を提出した後、その返し部分としての書類を受け取ります。この際、 「職業訓練受講給付金」を希望する方は、その申し込みに必要な書類も併せて受け取ります。
〇 書類の提出・受領とともに、担当者から訓練に合格した後の手続きについての説明があります。
②の4 訓練施設へ連絡する
〇 ハローワークでの受付後速やかに訓練施設へ電話し、選考試験(面接等)受験のための連絡をしてください。 訓練施設側ではこの電話連絡を元に試験時程を組みます。
〇 ハローワークで受け取った受講申込書(ハローワーク受付印のあるもの)を、選考試験日前に間に合うよう、訓練施設へ送付又は持参してください。
③《面接・筆記試験等受験》
〇 訓練施設での選考試験を受験する
試験は書類(受講申込書)だけで行われる場合もありますが、ほとんどの場合は面接、もしくは面接+筆記試験があるので、ある程度の準備と対策が必要です。
④《選考結果通知》
〇 合格の手続きを実施する
合格の手続きを実施するため、ハローワークが指定した日時にハローワークに行き、「就職支援計画書」の交付を受けます。(訓練開始前日までに「就職支援計画書」の交付を受けないと訓練を受講することができません。)
この際、訓練施設から届いた「選考結果通知書(合格通知)」と写真(規格は前に同じ)を持参して下さい。
〇 「職業訓練受講給付金」を希望する方は、その申し込みに必要な書類も併せて提出してください。
⑤《受講あっせん》
〇 受講あっせんを受ける
ハローワークにおいて合格の手続きを実施した後、受講のあっせんを受ける。
⑥《ハロートレーニング受講》
〇 訓練開始日の行動
いよいよ訓練の開始です。示された時間まで(少し早め)に登校し、「就職支援計画書」を提出します。職業訓練受講給付金を希望している方は職業訓練受講給付金支給申請書も併せて提出します。
また、訓練コースにより違いますが、パンフレットに示された書類を提出することもありますので注意してください。
以上が求職者支援訓練受講に至る流れですが、これは東京都の例を参考にしたものであり道府県により多少の違いがありますので、自分が居住する道府県のホームページを是非確認してください。
また、居住地を管轄するハローワークに問い合わせください。
第4 再々就職のための職業訓練を目指す方に
再就職を終えて新たな就職のために職業訓練を目指す方は、「初めに」で述べた①②の方とは条件に違いが生ずることがあります。
これまでの再就職で勤務されている間に「雇用保険の受給資格」が得られた方は、「公共職業訓練」を受けることができるからです。
つまり、公共職業訓練を受講している間に得られる給付金は「職業訓練受講給付金」ではなく「雇用保険」になるのです。
これまで説明してきた「求職者支援訓練」との違いについて少し説明しますと、
① 「訓練受講資格」
・ 雇用保険受給資格者証を持っている(基本手当の受給資格がある)
・ 求職の申し込みをしている(求職活動中)
② 「受給する給付金」
・ 基本手当…離職前の賃金により額は異なる
・ 受講手当…日額500円(上限あり)
・ 通所手当…訓練施設通所に要する額(上限あり)
となります。その他の「受講費用」や「受講できる訓練の種類」、「受講に至る流れ」などはこれまでの説明と大きな違いはありません。大事なこと、は、ハローワークに相談する際に「雇用保険の受給資格がある」ことを明示することと制度の内容についての十分な説明を受けることです。
再就職での勤務間において「雇用保険の受給資格」が得られていない方は、先の説明のとおりとなります。
いずれにしましても職業訓練は再就職するための有力な手段です。
ぜひ有効活用されることお勧めします。