「+アルファ」が選択肢を広げる

「この道一筋」の限界を知ろう

 前回、「人間としての成長」を目指す上で、「自衛官+アルファ」の「アルファ」が大事ということに触れたが、その細部について取り上げよう
 先日、「業務管理教育」で再就職中のOBが「自衛官として勤務をしっかりやっておれば資格など必要ない」と講話していると聞いた。また、割と自衛隊に理解のある有識者がメルマガで同様の趣旨のことを書いていた。
 再度強調しておきたいが、自衛官の資質や経験が〝売り〟になるのは、「退職直後の再就職」、特に、自衛隊と関係の深い企業等に援護組織のお世話で仕事を得る場合(だけ)である。
 最近、民間企業においても「入社以来、この道一筋で育ってきた人は、どんなに頭が良くて優秀でも視点を高めようがない」とされ、人材育成のためには様々なポストを経験させ、苦労をさせることが大事だと強調されている。
 長い間、自衛官として様々な要職を経験し、資質を蓄積したとしても、世間の基準からみれば「この道一筋」であり、時代や社会の急激な変化にも追随できず、視点が狭く応用がきかなくなる場合がある。それが問題なのだ。

民間人が理解する「+アルファ」

 すでに述べたが、企業側の人材確保は「ジョブ・ファースト」、会社にとって必要な人材を求人する傾向が益々強くなっている。
 保有資格や職務経験など会社のニーズに一致する人材が見つかれば、元自衛官の経歴などは書類段階で振るい落とされ、面接のチャンスすらない。元将官や1佐クラスであってもそれが現実である。
 そのような経験の中にも、定年後の人生に役に立つ「考え方」「スキル」が山ほどあるし、少し適用範囲を広げれば、そのまま国家資格の取得につながる教育や特技も少なくない。
 チャンスがあるとすれば、経営者や人事担当が元自衛官としての〝未知の人材〟に「チャレンジ精神」や「おもしろさ」を感じ、会社のニーズに応えてくれるかも知れないとの〝期待感〟を持つ場合であろう。
 書類上で自衛隊の実績などをいくら強調しても、民間人はそれらを理解できない。理解して評価するのは、民間人も共有する「資格」や「スキル」そのものに加え、職務経験がなくとも、自衛官として多忙な勤務の中で、視野を広げ、世の中が求める資格やスキルの取得に奔走した、その積極果敢でチャレンジングな〝生き様〟である。
 繰り返すが、自衛官としての誇りや経験を捨てる必要は全くない。しかし、それをもって「この道一筋」の生き方に執着しないことが大事なのだ。
 定年後も長い人生は続く。その意識と準備がなければ「選択肢」は狭くなる。選択肢を広げ、人生の晩年を面白くするのが「+アルファ」なのである(図参照)。その細部について次号も続けよう。