第1編 「年金」について

本テーマのトップを切って、5回に分けて、老後の生活費の中心や残された家族の生活の糧となる「年金」について取り上げます。1~4回は老後の生活費の中心となる「老齢年金」について、5回目は残された家族の生活の糧となる「遺族年金」についてお話ししたいと思います。

「年金は老後生活の要(かなめ)」(5) 

▼はじめに

 今回は「公的遺族年金」についてお話しします。「公的遺族年金」の仕組みを理解することはとても大切で、年金は残されたご家族の生活の糧となる訳ですが、夫には年齢制限があったり、年金を繰下げても期待していた年金額より少なくなる可能性があります。そのため今回は公的遺族年金の仕組みについて、支給額や対象者などを中心に分かりやすく説明したいと思います。

▼「公的遺族年金」について

 「公的遺族年金」には「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」があります。「遺族基礎年金」は「子ども」(※)のいらっしゃる方に限り支給されるもので、「子ども」のための養育費用ということになります。一方、「遺族厚生年金」は 残された配偶者やご家族のためのもので、亡くなった方の収入を補填するという意味があります。

※「子ども」:18歳になった年度の3月31日までの人、20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある人を指します。
ただし、婚姻していない場合に限ります。また、胎児であった子でも、死亡当時には妊娠していた場合、出生後に対象となります。

▼「遺族基礎年金」の仕組み

 「遺族基礎年金」は、成人する前のお子さんの養育費用だと理解して頂くと分かりやすいかと思います。

◇どのような人が亡くなると支給されるのか
 国民年金に加入していた人や老齢年金をもらっていた人が亡くなった場合に、生計を維持していた「子ども」(上記※)のある配偶者または「子ども」が「遺族基礎年金」を受け取れる条件を満たしている場合に支給されますが、 「子ども」がいない配偶者には「遺族基 礎年金」は支給されません。また、この場合の配偶者には男女の差はありません。

◇「遺族基礎年金」の年金額はどれくらいか
 年金額は、基礎年金の満額である約78万円(年金額は加入している年数には関係なく満額の金額)と「子ども」が居る場合には、その人数に応じた加算額があります。2人目までは一人当たり約22万5000円で、3人目以降は約7万5千円が 追加支給となります。

▼「遺族厚生年金」の仕組み

 「遺族厚生年金」は、 一家の大黒柱が亡くなった場合の収入を補填するという制度で、このことを理解して頂くと内容が分かりやすいかと思います。

◇どのような人が亡くなると支給されるのか
 「遺族厚生年金」は、「厚生年金」に加入していた被保険者や障害等級1、2級に該当する「障害厚生年金」の受給者、「老齢厚生年金」の受給権者(保険料の納付などが25年以上)の方が亡くなった場合に、配偶者や「子ども」などの遺族に支給される年金です。また、被保険者が資格を喪失して5年(最初に受診してから)を経過する前に亡くなると支給されますが、この内容は収入補填の考えが良く出ていると思います。

◇支給される遺族はどのような方なのか
 遺族の範囲は、亡くなった方によって生計を維持されていた配偶者や子、父母、 孫、祖父母が対象となります。 「遺族基礎年金」より対象者の範囲が広くなっています。また、 妻が配偶者の場合は年齢に制限なく 支給されますが、 夫、父母、祖父母が対象の場合は年齢制限があり、55歳以降でないと受給権が発生しません。さらに、実際に支給が開始されるのは、原則、60歳からとなります。このような内容は、一家の大黒柱が亡くなった際の収入補填の考え方がよく出ています。

◇「遺族厚生年金」の年金額はどれくらいか
 年金額は 月収や加入月数によって算定され、「子ども」の数による加算はありません。また、短期要件(加入期間が短い)と長期要件(加入期間が長い)により支給額に差があります。短期要件とは、厚生年金に 加入して間もない方にも充分な補償を行えるような仕組みで、加入月数が300ケ月に満たない場合には、加入月数が300ケ月あったとみなし年金額を算定する内容です。長期要件とは、加入月数が300ケ月以上ある方や既に老齢厚生年金(加入期間が300ケ月以上)を受給されている方が対象となります。 年金額は上記の仕組みにより算定された金額の4分の3が支給されます。もし、受給者が「老齢厚生年金」を受給されている場合は、「老齢厚生年金」が優先され支給されます。また、「遺族厚生年金」の方が多い場合には、その差額が「遺族厚生年金」として支給されます。これは、「老齢厚生年金」は課税対象ですが、「遺族厚生年金」は非課税であるからと考えられます。

◇「遺族厚生年金」と年金繰下げ(支給開始時期を遅らせる)について
 このシリーズでは年金を繰下げて、老齢年金を多くもらうことをお勧めしておりますが、「遺族厚生年金」については注意事項があります。それは、「老齢厚生年金」を繰下げて年金額を増やしても、「遺族厚生年金」には反映されないと言うことです。「遺族厚生年金」の計算は65歳時点の年金額を基礎にして行うことになっています。そのため、配偶者に多くの年金を残そうと思う方は、配偶者の「基礎年金」を繰下げることが有効となります。

◇中高齢寡婦加算について
 「子ども」のある妻には、国民年金から「遺族基礎年金」が支給されますが、「子ども」のない妻には「遺族基礎年金」は支給されませ ん。そこで、両者の不均衡を是正するために、「遺族基礎年金」の代わりに設けられたのが、中高齢寡婦加算で「遺族厚生年金」に加算されます。その条件としては、 夫が亡くなった時、妻の年齢が40歳以上65歳未満であること、又は、夫が亡くなった際に40歳未満であっても40歳に達した時に、「子ども」と生計を同じにしている場合となっています。 年金額は 遺族基礎年金の基本額(「子ども」の加算がない)の4分の3となります。

▼最後に

 今回は、公的な遺族年金の仕組みについてお話ししました。遺族年金は残されたご家族の生活の糧となる訳で、とても大切な仕組みです。夫には年齢制限があること、「老齢年金」を繰下げても期待していた額より少なくなる可能性があることもお話ししました。これらの公的な遺族年金の仕組みについてご理解して頂いた上で、是非とも、健康で充実した再就職ライフを過ごして頂けたらと思っております。