「教養」を高めよう!

 前に紹介した、元サッカー日本代表選手のセカンドキャリアをドラマ化した「オールドルーキー」が9月11日、終了した。当初から予測はしていたが、主人公は「アスリート最優先」の姿勢を貫き、最後は上司さえも屈服してハピーエンドに終わるとの筋書きだった。
 翻って、退職自衛官のセカンドライフを考えると、再就職先で「国防や自衛官へ理解最優先」とはほぼ期待できず、ドラマのような展開にはならないだろうとの思いが余計に強まった。
 本シリーズでは、これまで自衛官の経験や資質以外の「+アルファ」として、資格やスキルの取得や意識改革などを取り上げてきたが、今回は「教養」について取り上げよう。このテーマも毎回の業務管理教育において必ず触れることにしている。

「嗅覚」は「教養」から生まれる

 お茶の水大学の藤原正彦名誉教授は、数学者とは思えないような独創的なテーマを取りまとめて時々上梓されているが、その1冊『国家と教養』の中で「教養」について語っておられる、その要旨を紹介しよう。
 「人間は耳目に入る情報から、自分にとって価値があり有意義な情報を『嗅覚』によって選択する。その『嗅覚』を培うものは、『教養とそこから生まれる見識』である。では『教養』と何か。その定義はあまりに多く、人により千差万別である」と。「感知力」とか「洞察力」と置き換えてもいい「嗅覚」は、確かに、自分の「見識」の範囲でしか察知できないことはよく理解できよう。
 藤原氏は、この「教養」を身に着ける手段として、ある社長の「人と付き合い、本を読み、旅をせよ」の言葉とか、漫画家の手塚治虫の「漫画の勉強することを止めて、一流の映画を見ろ、一流の音楽を聴け、一流の芝居を見ろ、一流の本を読め、それから自分の世界を作れ」の言葉などと紹介しているが、「漫画ばかり勉強しても一流の漫画家になれない」との指摘は実に興味深い。
 さらに「『教養』は実体験によって得られるもので、京都がどのような町かは、京都に行ってみなければ理解できない。モーツアルトの音楽がどのようなものかは、聴く以外に方法がない。しかし、人間が一生の間に実体験することは限られている。『間接体験』(追体験)するしかない。よって、読書、文化、芸術などに親しむことが大切なのだ」と看破する。全く同感である。

「研鑽に定年なし。一生勉強!」

 自分の「嗅覚」、その基になる、それぞれの「教養」を一朝一夕に身につけることは出来ない。継続した努力の積み重ねが必要である。一方、悲しいかな、自分の持っている「教養」は(その広さや高さを)いくら隠そうと思っても、通常、瞬時のうちに見破られるのも常だろう。
 履歴書などの書類審査を合格しても、30分程度の面接でふるいにかけられるのはこの「教養」である。その場に及んで「もっと勉強しておけばよかった」と悔やんでも遅いのである。
 業務管理教育でいつも問うことがある。「民間人と自衛隊以外の話題で話がはずむか」「民間人を惹きつける話題を持っているか」と。ぜひ、自衛官諸氏には胸に問うてもらいたい。そこがスタートであろう。それが分かったら、日々研鑽を積むしかない。「高いつもりで低いのが教養」という「つもりちがい」の一節もある。「研鑽に定年なし。一生勉強!」なのである。