始めに

 
私は平成21年に自衛隊を退職し現在第3の人生を歩んでおりますが、これから自衛隊を退職して再就職しようとしている皆さんに、「公的職業訓練」について数回にわたって説明していこうと思います。
公的職業訓練については後ほど説明することとして、まずは広い意味での「職業訓練」から説明に入ります。

この記事を読んでくださる方は、大きく分けて次のような皆さんでしょう。
① 現役自衛官(任期制、非任期制に拘わりなく)であり、これから退職して再就職する。
② 元自衛官であり一度再就職し、これからさらなる再就職をする。

それぞれについては職業訓練を受けるに当たって若干の条件の違いがあるのですが、まずは共通のところから説明し、必要に応じ区分して説明します。

自衛隊退職者が再就職する場合、まず防衛省及び自衛隊援護協会で準備されている就職援護制度を活用するのが第一の道です。
それでうまく進めばいいのですが、退職後の仕事は自分で探すという方や就職援護の結果がうまくいかずにリターンマッチしたいという方もおられると思います。そのような方にお勧めするのが「職業訓練制度を活用」する方法です。

これを知っているか否かでその後の生き方が大きく変わってしまう可能性もあるわけで、知っておく方が良いと思います。
ただ、職業訓練についてネットなどで調べてみると実に沢山の記事があり、どれも参考にはなるもののあまりに多すぎて混乱してしまいます。
また、突き詰めれば突き詰めるほど奥が深く、理解が追い付かない部分もあります。
そこで、皆さんがこれから再就職するに当たり「職業訓練」について少なくともこれだけ知っていれば良いのではないかというものを私なりに整理し、説明しようと思います。
 

第1 職業訓練についての基礎知識

 

その1 職業訓練とは

 
さて「職業訓練」とは何でしょうか。定義をあたってみます。

実は「職業訓練」の定義は、明確に示されてはいません。
日本における職業訓練等を定める法〈「職業能力開発促進法(昭和44年7月18日法律第64号)」〉に規定がないのです。
しかし同法の改正前の「職業訓練法(旧職業訓練法)(昭和33年5月2日法律第133号)第2条第2項 定義」において
【この法律で「職業訓練」とは、労働者に対して職業に必要な技能を習得させ、又は向上させるために行う訓練をいう。】
と規定されています。

また、前述の「職業能力開発促進法 第4条」には
【事業主が、その雇用する労働者に対し必要な職業訓練を行い職業能力の開発及び向上の促進に努めなければならない】
ということを規定しています。
さらに、職業訓練を公的に取り扱う厚生労働省では「公的職業訓練」を「ハロートレーニング」と称し、その説明の中で職業訓練の対象を「労働者」と「求職者」にしています。

つまりこれらを取りまとめると、「職業訓練」とは、
【労働者や求職者に対して職業に必要な技能を習得させ、又は向上させることを目的として、事業主が雇用する労働者に対して実施している私設のものと、国や都道府県が労働者や求職者に対して実施している公的なものとがある。】
と理解することができます。
 

その2 「職業訓練の種類」

 

1 「私設の職業訓練」と「公的職業訓練」

 
「職業訓練の種類」については、切り口によっていろいろな表現がありますが、「その1」でわかるように、「事業主が雇用する労働者に対して実施している私設のもの」と、「国や都道府県が労働者や求職者に対して実施している公的なもの」とがあると言えます。
ここで、「私設のもの」における事業主を「防衛省」に、雇用する労働者を「現職自衛官」に置き換えたらどうでしょう。・・・
そうすると「防衛省が現職自衛官に対して実施している職業訓練」になります。

実は、防衛省の「再就職支援施策として行っている職業訓練」がこれにあたります。
令和3年度版防衛白書第4部第1章第1節3-3「隊員の退職と再就職のための取組」(※1)には、「退職自衛官の再就職支援については、防衛大綱 及び中期防に基づき、引き続き職業訓練課目の拡充・・・一層の充実を図ることとしている」などと書かれています。これに基づき、皆さんの中には既にこれを受講されている方も大勢いるかも知れません。
もしそうでないのであれば、これからでもいいですから是非職業訓練の受講を希望してみては如何でしょうか。

「再就職支援施策として行っている職業訓練」には図表Ⅳ-1-1-5(防衛白書383頁)にあるように、自動車運転、施設機械等運転、電気通信技術など、約150課目の職業訓練の受講が可能なのだそうです。
上記の区分で言えばこれは事業主を防衛省とする「私設のもの」にあたります。
防衛省だけではなく、多くの企業が自分のところで働く労働者に「私設の」職業訓練をさせる制度を持っています。

一方、国や都道府県が労働者や求職者に対して実施している「公的なもの」はどうでしょう。
「公的職業訓練」がこれにあたります。これは先にも述べたようにハロートレーニングとも称され、「公共職業訓練」及び「求職者支援訓練」の2つから成ります。
全体を見てみると、公共職業訓練には「離職者向け」、「在職者向け」、「学卒者向け」、「障害者向け」などがあり、求職者支援訓練は「離職者向け」のみとなっています。

【公的職業訓練】

 
区分\呼称 公共職業訓練 求職者支援訓練
離職者向け 対象:主に雇用保険受給の求職者 対象:主に雇用保険非受給の求職者
在職者向け 対象:在職労働者 空白
学卒者向け 対象:高校卒業者等 空白
障害者向け 対象:障害者 空白

「ハロートレーニングの全体像」(※2)
それぞれの具体的内容については、後ほど説明します。
 

2 「離職者訓練」、「在職者訓練」及び「学卒者訓練」

 
職業訓練について良く聞く言葉に「離職者訓練」というのがありますが、これは「離職している求職者に対して行われる職業訓練」のことであり、上の表にあるとおり「離職者向け」の公共職業訓練及び求職者支援訓練を指します。
またこれと並んで「在職者訓練」、「学卒者訓練」などという言葉もありますが、これらは「在職中の労働者に対して行われる公共職業訓練」、「中学・高校卒業者を対象とする公共職業訓練」のことであり、上の表で「在職者向け」、「学卒者向け」とされるものです。
 

3 「施設内訓練」と「委託訓練」

 
職業訓練の種類の3つ目として、「施設内訓練」と「委託訓練」があります。
「施設内訓練」とは、前項で参照として示した「ハロートレーニングの全体像」の中で「公共職業訓練」を実施する機関について、「国(ポリテクセンター)/都道府県(職業能力開発校)」と書かれている訓練施設で実施される訓練を言います。
主としてものづくり系・技術系の科目が多いようです。

「国(ポリテクセンター)/都道府県(職業能力開発校)」として書かれている訓練施設を列挙すると、以下のようなものであり

これらは、常設の訓練施設です。

これに対し「委託訓練」とは、「ハロートレーニングの全体像」にある「公共職業訓練」及び「求職者支援訓練」を実施する機関が「民間教育訓練機関等(都道府県からの委託)/(訓練コースごとに厚生労働大臣が認定)」とされるものであり、民間企業やNPO、専門学校等に委託する職業訓練を言います。
訓練内容については、就職支援をはじめ、多様な職種に適応できるよう、情報、福祉・医療、営業サービス・事務等多種多様な科目があります。
 

4 「公共職業訓練」と「求職者支援訓練」

 
国や都道府県が行う公的職業訓練は「公共職業訓練」及び「求職者支援訓練」の2つであり、「ハロートレーニング」と呼ばれることは先に述べたとおりです。
皆さんは求職者として職業訓練を見るわけですから、これからの説明は公的職業訓練の中の「離職者向け」を主として説明します。

その概要は以下のとおりです。(東京都の例)
「ハロートレーニング(職業訓練)について」(※3)

( 参 照 )
※1「隊員の退職と再就職のための取組」R03040101.pdf (mod.go.jp)
※2「ハロートレーニングの全体像」スライド1(mhlw.go.jp)
※3 「ハロートレーニング職業訓練)について」東京労働局 (mhlw.go.jp)